証券 K.2nd:君に声は届かないようです

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君に声は届かないようです   2008.12.31

閲覧注意


 ついにこの日が来たんだな、と嬉しく思いながら私はドアをノックしました。

 その先にいた僕はきっとお隣りさんだろうなと思って何も知らずにドアを開けました。


 きいばたんぐちゃり。


 私はドアが開いた瞬間右手に持った凶器を思い切り振り上げて、

 僕はと言えば急な出来事に頭が追い付かなくて、


 彼を殺しました。

 彼に殺されました。


「ああ、ごめんなさい」


 と彼は謝るも僕には伝わらなくて、


「あ、ぐ」


 と彼は呻くも私には何が言いたいのか伝わらなくて。






――――君に声は届かないようです







 何を始まりと言うならば恐らく一週間前だろうと私は思いました。

 その日僕はいつもどおりの暮らしを堪能し夕方という終わりを実感し始めながら余韻に浸っていて。

 ぴんぽん、と私は挨拶をしに彼の家のチャイムを鳴らします。

 僕は誰だろうと思い、がちゃり、ドアを開けました。

 開いたドアの先には目をぎゅうっと瞑った彼がいて私を見て一瞬驚きます。

 ドアを開くとそこにはこれでもかと言う程に目の大きい人がいて僕は一瞬呆気にとられて。


「ああ、初めまして」

「は、初めまして、なんです」


 彼は予想通りの反応をして、

 彼は僕の反応に思い通りといった顔をして、


「私、隣に引っ越してきたワカッテマスと申します」


 と、簡単な自己紹介をして僕に洗剤をくれました。





「あ……あ、あぁ僕はビロードって言うんです、よろしくお願いしますなんです」


 彼はそう言って差し出した洗剤を受け取ってくれました。

 第一印象は普通の人、ちょっと目の大きい人。

 彼女から聞いた通りの名前に外見、そして性格に私はにんまり。

 すると新たなお隣りさんが、ちょっと笑った気がして。


「あ、すみません、では私はこれで」


 しかしそれを誤魔化すかの様に彼は去って行ってしまいました。

 危ない危ない、と私は彼の部屋から足早に去って行きました。

 僕は貰った洗剤を適当に洗濯機の近くにでも置いて、お隣りさんと仲良くなれたら良いなあと思います。

 感情をあまり表に出さない様に気を付けようと誓いました。

 そしてその日、僕は生活にお隣りさんという新たなる変化が加わったところで眠りにつきました。

 後、上手くやらなくては、とも誓い、その日はもう明日の為にも私は早めに寝る事にします。




 次の日、朝起きて僕が部屋を出ると、お隣りさんが箒と塵取りを持って掃除をしているではありませんか。


「ああ、おはようございます」


 僕は思います、この人は何でも始めに『ああ』と言うな、と。


「ビロードさんは大学生ですか?」

「そうなんです、ワカッテマスさんもですか?」

「ええ、まあ」


 彼は曖昧な返事をして固く冷たいコンクリートの上に箒をサッサと滑らせます。


「さて、と」

「ワカッテマスさんは偉いんです」

「そんな事ありませんよ」


 掃除を終えたのか箒と塵取りを玄関の方に置いて行く彼に僕は声を掛けました。




「ねえ、ビロードさん」

「……はい?」

「君の――――」


 その先は一瞬だけ強く吹いた風とそれによって舞い上がり音を立てた落ち葉によって聞こえなくなってしまいました。


「ビロードさん?」

「ご、ごめんなさいなんです、今ちょっと聞こえなくて……」

「ああ、良いのですよ聞こえなくても、さてそろそろ時間では?」


 また、ああ、だ、と思い、そして僕はその発言を不思議かつ不気味に思いながらも、最後の言葉にハッとして、走り出しました。


「君の行動は全て解ってます」


 一瞬だけ、先程の言葉が、こう聞こえた様な気がしたけれど、今は考えている暇も無く。


 何故彼が、僕に時間が迫っていたのを知っているのかも、考えている暇はありませんでした。





 それから二日程経った頃、また朝にビロードさんと私は会いました。


「おはようございます、なんです!」


 おはようございます、と返して私は日課の掃除を続けます。


「そういえば、今ワカッテマスさんが来る前に、ここに住んでいた人の事を知ってますか?」


 恐らくここ、とは私の今借りている部屋だろうと察して、私は横に首を振りました、勿論嘘です、彼女の事を知らない訳が……。


「こういう事言って良いのかよくわかんないんです……でも、以前ここに住んでいた人が殺された事くらいは、一応知っておいてほしいんです」

「殺された、のですか?」

「はいなんです、詳しい事は、僕にも分かりませんが……」


 そう言うとビロードさんは少しだけ暗くなって、次に無理矢理明るくなります、よくもまあ、白々しく。


「で、でも良い人だったんです! 僕、結構お世話になってましたし……」




「そうなのですか」

「……お隣りさんがよく言ってたんです、僕に」

「……何を?」

「でも僕、頭悪いからわかんないんです、わかんなかったんです」

「ビロード、さん?」

「わかんない、わかんないわかんないわかんないわかんない……」


 それから狂った様に彼はわかんない、と続けるものですから、私はもう一度彼の名を呼びました。


「あ、はは、ごめんなさいなんです、ちょっとショックで色々あって……では」


 そう言うと彼は歩いて行きました、と思いきや一度立ち止まって、彼は振り返らずに言います。


「狂うってなんですかね。……って、お隣りさんがよく言ってたんです」


 私は何も答えませんでした、きっと、彼の中では既に答えが出ているから、そして彼女がそれを彼に尋ねていた頃には、もう。





 それから淡々と何日かが過ぎて行きました。

 別に僕らは特別仲良くなる事も無く、

 悪くなる事もありませんでした。

 そんなある日僕は思い出しました。

 そしてとうとうそれはやってきました。

 昔住んでいた方のお隣りさん。

 彼を殺さなくては。

 彼女は良い人でした、僕は彼女にきっと恋をしていました。

 復讐の為に、可哀相な彼女の為に。

 しかし段々と彼女とは行き違いが多くなって、それでも僕は離れたくないという愛が故に、彼女を束縛して、そして

 そして餓えている自分自身の心の為に、彼を

 殺しました。

 殺さなくては。




 ごめんなさい、ごめんなさい。

 今思えば、馬鹿な事でした。

 貴女はそれを望まないのかもしれませんね。

 彼女は、隣人は僕を

 もしかしたら、もう狂って狂って、疲れ果ててしまったのかもしれないのですから。

 何とも思っていなかったのに。

 けれど私は憎いのです、ですからどうか、お許し下さい。

 愛しているのに殺せるなんて、僕は狂っているんです。

 ……神に祈る時間はもう終わりました。

 狂った人間は、死んだ方が良い、そうでしょう?

 殺戮せよ、殺人せよ、一歩でも無駄に動いたら死なせる覚悟で。

 ならば僕は、殺される事に抵抗はしません。

 さて、殺しに行きましょう、彼女の為に、私の為に。


おわり。

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