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境目のようです。   2008.09.17

俺には大切な家族がいる。
そして、大切な兄弟がいる。

就職して一人暮らしをはじめた姉と、
可愛い盛りの、本当に可愛らしい妹と、
……いつからか、ひきこもりになってしまった兄者が。



兄者の部屋は、全ての世界から隔離されていた。
あの部屋と、この世界の間には、壁とはまた別な仕切りがある。
そんな気がする。

例えれば、廊下から外は活気のある生者の世界で、
兄者の部屋は死者の住まう世界だった。

何が違うのかはわからない。
温度か、においか、湿度か。
それらのどれが作用して、俺にそう感じさせるのかはわからなかった。

俺はこの部屋に入るのが嫌いだった。
兄者の部屋なのに嫌だなんて、笑われるかもしれないが、とても不快な空間だった。


だが、今日はこの部屋に入らなければならない。
レポートに使う資料を、ネットで探さなければいけないのだ。
家に唯一あるパソコンは、兄者が始終使っている。
学校で調べてくればよかったと、少し後悔している。

(´<_` )「兄者、入るぞ」

念のためノックをして、声までかけてから入る。
返事はこないとわかっているので、待たない。

相変わらず、兄者はパソコンと睨めっこをしていた。
一体何が楽しいのやら。

(´<_` )「兄者」

少し離れたところから名前を呼ぶ。
やはり返事はない。



(´<_` )「兄者。 おい、兄者」

(´<_` )「………」

(´<_` )「兄者!!」

(  ´_ゝ)「……なんだ」

大きな声を出して、やっと兄者は返事をした。
顔は動かさず、液晶を睨みつけたまま、ぼそぼそと聞き取り難い声で発音する。
それがとても虚しい。

(´<_` )「調べたいものがある、パソコンを貸してくれ」

( ´_ゝ`)「……あとでな」

予想された答えが返って来た。
念の為、何時に貸してくれるのか確認しておいてから、
俺は本棚からマンガを一冊抜いてパラパラとめくった。


兄者はひきこもりである上に、極度のネット依存症だった。
放っておけば、数日間くらい平気で寝ずに食べずに、パソコンをいじっている。
こんなものきっと、リアルと比べれば何も楽しくなんかない。
それでも、ここから動けないでいる。

そんな毎日を送っているせいか、兄者はいつの間にか、とても小さくなった。
一日中カーテンを開けない、蛍光灯ばかりの暗い部屋にいるせいで、肌は白くなり、
運動もせず、殆ど何も食べないからか、骨ばかりが皮膚から浮き出ている。
一体、何の為に生きているのか、わからなくなるほどに。

俺はマンガ越しに、兄者を見た。
その背を見ると、虚しさが俺を襲う。
この背には、未来がない。
何もない。

闇を振り払おうとして、兄者のベッドに横になった。
冷たいシーツが肌に沁みた。


気付けば、いつの間にか寝ていたようで、分厚いカーテンの向こうは光を放たなくなっていた。
時計を見ると、6時過ぎ。
夕食の時間で、リビングからは良い匂いが漂っている。

今日も兄者は何も食べないつもりなのだろうか。
そう思いながらパソコンを見ると、そこには誰もいなかった。
珍しい。

リビングに行くと、既に皆、食べている途中だった。
父者、母者、妹者が、楽しそうにおしゃべりをしている。
内容は俺にはわからない話だった。

(´<_` )「もう食べてるのか?
      なんだ、呼んでくれればいいのに」

自分のものなのに、ぼそぼそと聞き取り難い言葉だった。
暫く寝ていたせいだろうか、妙に声が出ない。

それは自分でも言ったかどうかわからないほど、余りにも小さい声だった。
彼らに聞こえたのか、聞こえなかったのか、定かではない。
それでも家族全員が、ゆっくりとこちらを向いた。
そこにいるはずだった兄者はいなかった。

(´<_` )「あれ、兄者はどこに行ったんだ?」

部屋にいなかったんだから、ここにいると思ったのだが。
俺は空いている椅子に座る。
俺のいつもの席だったが、そこに飯は用意されていなかった。
母者が慌てて食器を出しにキッチンへ行った。


(´<_` )「なあ、兄者は?」

同じことを再度問いかける。
だが、先ほどと同じく、彼らは不思議そうな顔で俺を見るだけだった。
来てないのだろうか。

(´<_` )「おかしいな、部屋にはいなかったんだけど」

从・∀・ノ!リ人「兄者」

殆ど独り言のようになった俺の言葉に、隣から妹が声をかぶせる。
続きを聞きたくないような、そんな声色だった。

(´<_` )「どうした妹者?何か知っているのか?」

从・∀・ノ!リ人「兄者…は、そこにいるのじゃ」

(´<_` )「は?」

思わず眉を顰めた俺を、妹者は少し泣きそうな顔をして、見つめる。
そこ、とは一体、どこのことだろう。


从・∀・ノ!リ人「兄者は、兄者なのじゃ。兄者一人しかいないのじゃ」

見つめた先は、間違いなく俺だった。
俺を飛び越えたその向こうの空間などではなく、俺に焦点が合っていた。
念の為に後ろを振り向いたが、やはり誰もいない。

(´<_` )「いや、俺じゃなくて、もう一人の、大きい方の兄者が…」

从・∀・ノ!リ人「兄者…さっきから、何を言っているのじゃ……?」

その目は冗談などではなく、本気だった。
普段人と話さない俺でもわかるくらい、リアルに伝わってきた。
"それ以上変なことを言わないでくれ"
瞳が訴えていた。


母者が俺の分の飯を持ってくる。
食器に盛られたその量は、小学校に上がりたての子供でも少なく感じるほど。

これ以上あっても、胃が受け付けない。
たまに食べる、俺の食事の量だった。

(´<_`; )「あ、あれ……?」

頭の中を、棒か何かでぐちゃぐちゃとかき回されている気分だった。
何かを考えたいのに、何も考えられず、ぼーっとする。
それでも段々思考がはっきりする。





俺には大切な家族がいる。
そして、大切な兄弟がいる。

就職して一人暮らしをはじめた姉と、
可愛い盛りの、本当に可愛らしい妹と、
いつからか、ひきこもりになってしまった俺が。


どうやら俺は夢を見ていたらしい。
普通に生活して、普通に友達をつくって、普通に大学に通う。
自分という不快な存在を誰かに押し付けて

普通に生きる"夢"を。



俺には兄などいなかった。
兄者は誰でもない、俺だった。

それはただの"現実”だった。


(´<_`; )「あああ……」

夢から覚めると、暖かい食卓すら、地獄の果てのような空間になった。
ひ弱になって、走ることさえ出来なくなった心臓は、重い空気の圧力に激しく押しつぶされる。
これ以上、そこにはいれなかった。

逃げるようにバスルームへ向かう。
洗面台の鏡の中で俺を迎えたのは、夢の中にいた俺の兄者だった。
誰も知らない、俺だけの"兄者"だった。

(´<_`; )「あ、兄者……どういうことだ……」

無愛想で無表情な顔をした兄者は、俺に手を伸ばした。
俺は久しぶりに兄者の顔を見た。
こんなに近い存在だったのに。

兄者の細い手が、俺の手に合わさる。
死者のように冷たい手の平だった。


兄者は自分の部屋を愛していた。
パソコンの中の世界を愛していた。
俺は兄者が嫌いだった。



それは、夢と現実の境目だった。



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